6月初旬 都内某稽古場 午後
例年よりも早く梅雨に入った東京だが、その日は梅雨の中休みで、スッキリとした青空が広がった。
1週間ぶりに訪れる稽古場。いったいどんな進化を遂げたのだろうと、ウキウキしながら稽古場の扉を開けた。
外のさわやかな空気とは裏腹に、どんよりとした重い空気が全体を覆っていた。
稽古場の雰囲気が悪いという訳ではない。
「バイト」の物語世界がずっしりと存在していたからだった。
はじめから終わりまでをノンストップでやる、通し稽古の真っ最中だった。
私が訪れた時に、ちょうど物語序盤の重要なシーンが展開されていた。
ほぼ完璧にセリフがはいった状態の役者陣、本番さながらの衣装を身にまとい絶妙な掛け合いを見せていた。
その周りを、演出玉置が真剣に見つめてる。なにかを思いついたのか、アイデアをメモ用紙に書き加える。紙を覗くと、まだ序盤のシーンだというのに、びっしりと書き綴られてあった。
面白いと感じたのは、玉置氏が、役者のセリフのやりとりにたまに「うん!」とうなるのだ。きっと彼のストライクゾーンに球が来たのだろう。その時の顔が本当にうれしそうだ。
「うん!」「おぉ!」「あはは!」
まるで役者と玉置氏がキャッチボールをしているかのようだ。
カスガイ 2nd connect「バイト」には、ここには書けない様々な仕掛けが用意されている。
劇場に入った途端きっと観客の度肝を抜くであろう、見事に計算された舞台機構。
その機構だからこそのストーリー。私もしてやられた。
ストーリーはもちろん、細部のセリフも完璧だ。シリアスなやりとりの途中にはさまれるシニカルな会話に思わず笑ってしまう。そしてじわじわと暴かれていく人間関係。ミステリー的要素もかいま見る事ができるこの脚本はすごいの一言だ。
いったいどんな結末が待っているのか…。
「カット!」壮絶なクライマックスシーンの後、玉置氏からの声がかかる。
まだ少し余韻が残る中、通し稽古が終わった。
そして稽古場は序々にいつもの朗らかな雰囲気を取り戻す。
本番まで10日あまり。この時期に通し稽古をするのは、なかなかのハイペースだ。
あるデザイナーの言葉に「80%=20%の法則」というものがある。
80%の完成度は、総制作時間のうち20%の時間で到達する事ができる。
しかし、残り20%の完成度を達成するには、総制作時間の80%を要する。
つまり、ここからが正念場だ。その苦しみは、役者達のつぶやきを見ていればわかる。苦しそうで、そして楽しそうだ。
このメンツならば、100%の完成度を裕に超え、120、いや200%の舞台を見せてくれるはずだ。
本番が楽しみである。
〈文・写真/(株)井上製紙ちり紙課・米山和仁〉

posted by カスガイ at 02:32
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